『女のいない男たち』の感想

「フラニーとズーイ」に引き続き、村上春樹の9年ぶりという短編集「女のいない男たち」を読む。

・「ドライブ・マイ・カー」はみさきにもう少し動きがあるかなと思ったら、急に終わった感じを受けた。もう少しみさきと家福とのやりとりがあったほうがよかった。
・「イエスタディ」は木樽の存在がおもしろかったし、16年後に話が飛んであの人はその後と振り返るところが、自分が村上小説に期待する部分でありこの短編集の中で一番良かった。
・「独立器官」は人間はこう変わるものなのかと、少しむなしくなる話だった。
・「シェエラザード」は面白かったが、これも途中で連絡係の女の昔話が終わってしまい、もやもやした感じを受けた。
・「木野」は後半の怪しい雰囲気と逃避が「ダンス・ダンス・ダンス」のような村上春樹全開で、なかなか良かった。
・「女のいない男たち」は今回の短編集向けに書き下ろしだそうだが、これも村上春樹全開でおもしろかったが、もう少し長くてもよかったかなと思う。

自分は「ノルウェイの森」や「国境の南、太陽の西」の頃が好きなので、村上春樹のここ20年間の長編は中身が現実離れしてより難しくなっており、少しついて行けない部分がある。しかしそれと比べて短編集は冗長にならずにまとまっており、今回のも「時間が経過することのむごさ」「昔あったものが今は無くなってしまったという喪失感」に満たされており、とても面白かった。短編集の中でもお気に入りである。

| | Comments (0) | TrackBack (0)

『フラニーとズーイ』(村上春樹訳)の感想

村上春樹訳の「フラニーとズーイ」を読んだ。

最初に読んだのは20年以上前で、その頃はサリンジャーに凝っていて最後の作品である「ハプワース16、一九二四」もサリンジャー選集を取り寄せて読んでいたものだ。

前半の「フラニー」はアメリカ文学らしい軽快な感じの文章なのに、後半の「ズーイ」は難しくて退屈な感じが長々と続き、よくわからなかったというのが当時の正直な感想だ。
前回の野崎訳と比べて今回の村上訳は文章は自然でわかりやすくはなっているが、「ズーイ」の部分はやっぱり退屈で難しかったという印象。でも物語の構成が少し見えた感じはした。

ということで村上氏が言う「こんなに面白い話だったんだ」までは感じなかったが、それでも時間を少し空けてまた読みたくなる、ちょっと気になる物語だと思った。

| | Comments (0) | TrackBack (0)

『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』の感想

連休中にようやく村上春樹の新作「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」を読んだ。感想など。

・村上春樹の好きな作品はだんトツ1位「ノルウェイの森」、2位が「国境の南、太陽の西」、3位が「ダンス・ダンス・ダンス」という「喪失3部作」(と勝手に思っている)だ。ここのところ幻想的な作品が続きそれはそれで面白かったが、読後は心の奥底まであまり残らなかったというのが正直な感想だ。そして今回の作品は「国境の南、太陽の西」に近く、読後は久々にずっしりと重かった。
・今回のシロは「国境の南」のイズミに通じるものがある。名古屋/豊橋/浜松という場所もそうだが、昔は奇麗だったのに今はそうでもないというところ。そうフィッツジェラルドの「冬の夢」に出てくる「昔奇麗だったものが今は無くなってしまった」という本当にやるせないあの喪失感からだ。
・つくるが友達からなぜ拒絶されたのか、その謎を解きに行くところは少々怖かった(読んでいる自分も臆病になっていた)が、その理由がわかってつくるの立場で考えると正直安心した。もちろん友達の立場から考えるとその原因は結局わからずじまいで、安心できるもではなく疑問は残ったままだ。そして沙羅の返事や灰田、緑川についても謎のままなのが、やっぱり気になるところである。
・アカもクロもつくるに「もう二度と会えないかもしれないが」と言うところがある。でももう二度と会えないだろうと思わなくても実際本当にそれ以降会えない例などいっぱいある。と考えると逆にこの世に何十億人いる人間の中で、ほんの一部の人間とでも繋がるのは本当に奇跡的な事だとあらためて感じたし、ある意味残酷な事だと思った。当たり前の事ではあるが。
・人の死というのは本当にそこで繋がりが何もかも切れてしまう、非常に厳しい現実である。でも生きていても歳をとるということはそれ以上に厳しい現実かもしれない。もちろん楽しいこともいっぱいあるが、それに迫ってくる厳しさが1秒1秒ずるずると忍び寄るところが恐ろしいと思う。昔のRockの歌にあった「歳をとる前に死にたいぜ」というのがわかる歳に自分がなってきたせいもあるが。
・「国境の南」を読んでからもう20年経つが、当然自分もそのぶん歳をとっている。今回の作品を読んでまた「国境の南」を久々に読み返してみたくなった。今読んだら20年前と違ってどう思うだろうか、というのを確かめたいというのが真意。ただしそれは自分探しの旅と言うほど大げさなものではない(のはずだ)、というのが今の正直な思いである。
・余談だが今回は「やれやれ」という台詞はなかったように思う。

| | Comments (0) | TrackBack (0)

Kindle 4の感想など

通勤電車の中で洋書で英語の勉強をしよう、ということでKindle 4を購入。

実際は英語版の紙のSteve Jobsを購入して読み始めたのだが、本のあまりの厚さと重さに外に持ち歩くのを挫折してしまったのが本当のところ。

Amazon.comで注文してから5日間で中国から到着。日本円で約11,000円。梱包箱を見た時からあまりの小ささに驚き、画面の美しさにさらに驚く。そして軽いし、裏面のすべりにくいフィット感が心地よかったりする。

今のところ特にカバーも付けずに使っているが、iPhoneのような高級感が無くコモディティ化した文房具のような感じなので、よい意味で無造作に使える。

噂される日本語版を待つことも考えたが、必要な時に手に入れて使って正解だったと思う。

| | Comments (0) | TrackBack (0)

『夢を見るために毎朝僕は目覚めるのです』村上春樹

1997年から2009年にかけての村上春樹のインタビュー集

自分は村上春樹の本はほとんど読んでいるが、他者によるいわゆる解説本はほとんど読んだことがない。それは村上氏の著作に関しては他人の評価がほとんど気にならないからだし、村上氏が作品に込めた思いは本人にしかわからないからだというごく普通の考えからだ。

そのためか稀に雑誌などに掲載される村上氏のインタビューもほとんど読んだことが無かったが、今回のインタビュー集は500ページ以上の長編ということもあり逆に興味を持って読み始めた。

読んでみると村上氏はちまたで思われているインタビュー嫌いというより、作家というのは話すよりも書くことで他者に伝えるべきだという信念を持っていることをまず感じた。

あと印象に残ったのは「僕は決して発展しながら小説を書いてきたのではなく、 あくまで小説を書くことによって、かろうじて発展してきたのだ」 という村上節と、「ぼく」という一人称の視点から三人称の視点で書くようになったことを、後から言葉で説明できるようになったせいもあるのかもしれないが本人もかなり意識していたということだ。

とにかく読みごたえのある作品のようなインタビュー集だと思った。

| | Comments (0) | TrackBack (0)

『1Q84 BOOK 3』の感想など

ようやくまとまった時間をかけて『1Q84 BOOK 3』を一気に読んだ。以下感想など(BOOK1,2の感想はこちら)。

・『1Q84』自体、最近の村上春樹の長編の中では久々に面白かった。 BOOK 3でようやくそれまでの謎解きが始まって小説への引込まれ感が強くなった事もあるが、文章もよくこなれていて読みやすいし、無駄な表現が本当に無いと言った感じ。『ノルウェイの森』のワタナベ君が『グレート・ギャツビー』に感じたのと同じ感じだと思う。
・やっぱりBOOK 2で終わるはずが無かった。BOOK 3が本来最初から構想にあったのが自然だろう。ちなみに最後はハッピーエンドだが村上氏の著作では珍しいはずだ。特に新しい読者のあまりの反響に責任を取った感じかな。
・だいぶ謎は解けたがそれでもふかえりはその後どうなったのか、年上のガールフレンドはどうなったのか、NHKの集金人の正体は天吾の父親の魂だったのか、安達クミは天吾の母親の生まれ変わりだったのか等、明確にはなっていない部分もある。それでもここ15年くらいの村上氏の著作の説明不足、読者への突っぱね方を考えると『1Q84』は村上氏が改心したのかと思うくらい読者に対して親切だ。
・BOOK 2までの牛河さんはいやな奴だったが、BOOK 3での探偵、ストーリーテラーのような活躍を見るとその結末は残念だ。客観的に犯罪者として見ると牛河さんよりも青豆の方が遥かに悪者なのにと思う。でも最後に彼の魂の一部が復活した事で少しは報われたかな。
・リインカネーションの話が出てきたので、ひょっとしたら『1Q84』はそれがテーマだったのかと思ったが、それは軽くスルーされた。ちまたではBOOK 4が出るのではとの噂があるが、もしそうならBOOK 4でリインカネーションがテーマに出てくるように予感している。
その場合、時代は25年後の2009年(200Qかな?)で、天吾と青豆の子供、ふかえり、そして牛河さんの生まれ変わりが織りなす物語の続きのような感じがする。
確かにBOOK 3でハッピーエンドに終わったのでこれ以上続けて欲しくない思いもあるし、三島由紀夫の『豊饒の海』のようにリインカネーション(輪廻転生)をテーマにした壮大な物語になってほしい思いもある。

BOOK 3のP.266でようやく村上氏著作の登場人物得意の「やれやれ」のセリフが出てきた。

やれやれ。僕は『1Q84』が、『豊饒の海』が持つ輪廻転生のような壮大なテーマで僕を打ちのめしてくれるのを期待しているのかもしれない。

| | Comments (0) | TrackBack (0)

サリンジャー死去

サリンジャーは昔はまっていた時期があって、全集を取り寄せて読んでいたものだ。
サリンジャーと言えば有名なのはもちろん『ライ麦畑でつかまえて』であるが、自分にとっては『ナイン・ストーリーズ』、特に『バナナフィッシュにうってつけの日』の衝撃的なのにすごくあっさりした表現の結末が大好きである。

そんなサリンジャーも1965年から45年間も新作が出ていないが、今回の死去をきっかけに、45年間の間に書きためていた著作が公開されて欲しいというのが本心である。

ちなみに日経朝刊のコラムに、その昔秋元康氏が作詞した『借りたままのサリンジャー』という曲をアイドルが歌って少し流行ったと書かれていたが、元オールナイターズ山崎美貴の曲だ。
懐かしい。

| | Comments (0) | TrackBack (0)

『やればできる』/ 勝間和代

勝間さんの新刊であるやればできるを読んだ。

・勝間さんと言うと勉強法、時間投資法、知的生産術までは結構目から鱗状態で読んでいたが、その後はあまりにも多く著作が出た事や本カバーに必ず掲載される顔写真に嫌悪感が出てしまい、読まず嫌い状態になっていた。今回も全く期待せずに発売日に立ち読みした所、今までとは違う切り口で興味を引いた事もあり、珍しく即購入した。
・今回の『やればできる』というタイトルは、当たり前すぎて内容と合っていないと思う。やればできるのはみんな分かっていて、じゃあどうすればやれるのか、できるのかという所に興味があるはず。せめて『みんなと一緒にやれば、自分もみんなもできる』というのが今回の地タイトルにふさわしいと思う(もちろんこれはベタすぎるので、もう少し考えないといけないが)。
・最近の勝間さんの行動を見ていると、言葉は悪いが調子に乗りすぎという感じを受けていたが、本作を読んでその戦略的な背景は理解できた。ただしその戦略と行動を感心するかしないかは別だが、そんなに不自然ではない自己正当化に思えた。
・自分はカツマーではないし、そんなに熱心な読者でもないが、本作は最初に立ち読みした時から今までと何かが違う感じがしたし、訴えるものがあったと思う。
まだ1回しか読んでいないが、今後何回も読み返したらその正体が見えてくる気がする。最近読んだ全ての書籍の中でも久々にそのように感じた著作だ。

| | Comments (0) | TrackBack (0)

『冬の夢』/ フィッツジェラルド作、村上春樹訳

ついに村上春樹の訳でスコット・フィッツジェラルドの『冬の夢』が出た。

・自分はフィッツジェラルドの中では『冬の夢』が一番好きだ。特に「確かに存在した、あんなに美しかったものが今は存在しない」という喪失感に『ノルウェイの森』、いや村上春樹の原点を見た気がして、初めて読んだ20年ほど前はすごく興奮していたのを思い出す。
・短編5編が収められているが、お目当てはもちろん『冬の夢(Winter Dreams)』だ。ちなみに一番好きな部分を訳者で比べてみた。

 ★野崎孝訳「ああしたものがもはやこの世になくなったのだ!かつては間違いなく存在したのに、今はもう存在しないのである」

 ★飯島淳秀訳「なんということだ、もうこの世にはないのだ!かつては存在したのに、今はもう存在しないのだ」

 ★村上春樹訳「ああ、それらはもうこの世界には存在しないのだ!かつては存在した。そして今はもう存在しない」

 他の部分を比べても『冬の夢』に関しては野崎訳が現実を見ろとすごく突っぱねた感じで喪失感を表している感じがして一番好きである。村上訳は自分のような思い入れの深い読者の思いを外すかのようにあっさりとした表現を行っている気がする。

ちなみに本書籍は美しいイラストと化粧箱入りの豪華な書籍で、これはこれで外観を見ているだけでも満足感いっぱいだ。

| | Comments (0) | TrackBack (0)

1Q84の感想

自分にとっての村上春樹ベスト3は「ノルウェイの森」「国境の南、太陽の西」「ダンス・ダンス・ダンス」といった1990年前後の作品である。そんな自分の1Q84 BOOK 1BOOK 2を読んでの感想。

・「カフカ」や「アフターダーク」と言った、エピソードが交互に進行しそれが絡んでいくと言う進行は同じだが、今回は絡めるためのネタふりがうまく、うまく進行にのめり込めたと思う。
・「うずまき鳥」は結構冗長に感じたが、その頃と比べると明らかに文章の表現力がさらに洗練され、一気に読まされた感じだ。
・「うずまき鳥」に出てきた牛河さんと同じ名字の人物が今回も出てくる。1Q84についてはその背景に「うずまき鳥」と「アンダーグラウンド」を合わせたような感じを受けており、もしそうなら1Q84はそれらを包含する壮大な作品と捉える事ができると思う。
・しかし最後はあっけなかった。というか消化不良である。巷でも評判になっているがどう考えてもBOOK 3が出るのが自然だろう。

今回は今までの小説に頻繁に出てきた「やれやれ」と言った村上節が影を潜めている。
ちなみに先日車屋さんに行った時に、字は違うが深田恵理子さんという名前の店員さんがいた。
今までなら何の気にもならないのに今回はすごくドキドキした。
やれやれ。

| | Comments (0) | TrackBack (0)

より以前の記事一覧

その他のカテゴリー

Apple | Book | Mathematics | misc | Music | Railway | Running | Squeak/Scratch | The Rolling Stones